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フリーランス法で、発注する側が書面やメールで示さなければならないこと

クリエイター保護

「来月のキャンペーン用に、キービジュアルを1枚お願いできますか。金額はいつもの感じで」

イラストの仕事は、こうした一通のメッセージから始まることもあります。気心の知れた相手なら、それで回ってしまう。ただ、あとになって「いつもの感じ」がどこまでを指していたのか、相手と自分とで食い違っていたと気づく。そうなってから条件を確かめ直すのは、お互いに骨が折れます。

2024年(令和6年)11月1日に施行された、いわゆるフリーランス法(正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)は、こうした食い違いを起こりにくくするために、発注する側に取引条件をはっきり示すことを求めています。今回は、その「示さなければならないこと」、公正取引委員会の資料で「明示事項」と呼ばれている中身を、条文と資料に沿って整理してみます。

どんな取引が対象になるのか

この法律で守られる側は「特定受託事業者」と呼ばれます。従業員を使わずにひとりで仕事を受けている個人の方と、代表者がひとりだけで他に役員も従業員もいない法人がこれにあたります(第2条第1項)。ここでいう「従業員を使用」とは、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上続けて雇う見込みのある人を雇っていること(同じ条件で派遣スタッフを受け入れている場合も含みます)を指し、同居の親族だけで仕事をしている場合は含まれない、と公正取引委員会と厚生労働省の「考え方」で説明されています。

そして、取引条件を示す義務(第3条)は、発注する側の規模を問いません。従業員のいる会社だけでなく、ひとりで活動しているデザイナーやディレクターが別のイラストレーターに仕事をお願いする場合にも、発注する側としてこの義務がかかります。フリーランス同士の取引でも関係がある点は、見落とされがちです。報酬の支払期日を納品から60日以内で定めるといった義務のほうは、発注する側が従業員を使っている事業者(法人なら役員が2人以上いる場合も含みます)のときにかかります(第4条)。そちらは著作権譲渡条項の読み方の後半で触れています。

なお、条文上の対象は「事業者がその事業のために」委託する取引です。依頼主が事業者として仕事を出しているのかどうかによって、扱いが変わることがあります。

第3条で示さなければならない「明示事項」

第3条は、業務委託をしたら「直ちに」、給付の内容、報酬の額、支払期日などを、書面か電磁的方法で示すよう定めています(この明示は、公正取引委員会の資料では「3条通知」と呼ばれています)。具体的な項目は公正取引委員会の規則(施行規則第1条第1項)に並んでいて、イラストの仕事に置き換えると、おおむね次のとおりです。

  • 発注する側と受ける側の名前(ハンドルネームなど、相手を識別できるものでもよいとされています)
  • 業務委託をした日、つまり依頼について合意した日
  • 給付の内容(何を、何点、どのサイズや仕様で納めるのか)
  • 納品の期日と、納める場所(データの送り先など)
  • 検収をするなら、その検収が終わる期日
  • 報酬の額と支払期日

手形や電子記録債権、資金移動業者の口座への送金、金融機関を通した支払方法(債権譲渡担保方式など)で支払う場合には、その金額や満期・支払期日、金融機関や資金移動業者の名前なども加わります(同項第8号から第11号)。また、依頼の時点でどうしても決められない事項に正当な理由があるときは、その事項は後から示せばよいとされていますが、その場合も、決められない理由と、いつ決める予定なのかを最初に示すことになっています(同項第12号)。

「直ちに」については、すぐにという意味で一切の遅れを許さないこと、と「考え方」に書かれています。仕事を始めてからしばらくたって、締めの請求の段階でようやく条件が出てくる、そうした順番は想定されていません。

メールやSNSのメッセージでもよいのですが、口頭では足りません

示し方は、紙の書面でなくても構いません。施行規則第2条は、電子メールなど受信する人を特定して送る方法を認めていて、「考え方」では、ショートメッセージや、相手を特定して送るSNSのメッセージ機能(ダイレクトメッセージなど)もこれに含まれ、反対に、ブログやウェブページへの書き込みのように第三者が閲覧できる場に付随する機能は含まれないと説明されています。電磁的方法で示すことについて、受ける側の事前の承諾は要らないとされています。

一方で、電話や打ち合わせの場で口頭で伝えただけでは、第3条の明示にはなりません。合意そのものは口頭でも成り立ちますが、条件を示す義務は、文字で残る形で果たすことになっています。

メッセージで受け取った場合は、そのメッセージをスクリーンショットやファイルで手元に保存しておくと安心です。アカウントが使えなくなって読み返せなくなることもありますし、電磁的方法で示された内容について、受ける側から書面の交付を求めることができる場面もあります(第3条第2項)。

著作権を渡す約束があるなら、その範囲も「給付の内容」に入ります

イラストの仕事でいちばん気にしていただきたいのが、ここです。

「考え方」は、発注する側が、依頼の本来の用途を超えて納品物の著作権などの知的財産権の譲渡や利用の許諾まで受けることを仕事の中身に含めるときは、明示する「給付の内容」の一部として、その譲渡・許諾の範囲をはっきり書く必要がある、としています(給付の内容に含めない場合でも、範囲をはっきりさせておくことが望ましいとされています)。あわせて、その対価を報酬に加える必要があることも書かれています。

つまり、「イラスト1点、納期いつ、金額いくら」だけが届いて、権利のことは何も書かれていない、という明示は、発注する側が権利の譲渡まで受けるつもりでいるなら足りていない形です。反対に、範囲がきちんと書かれていれば、受ける側もその金額で引き受けるかどうかを判断しやすくなります。

譲渡と利用許諾の違いは「著作権を譲渡してください」と言われたらで、契約書に「第27条及び第28条の権利を含む」と入っているときの読み方は著作権譲渡条項の読み方でくわしくご説明しています。明示を受け取ったら、この二つの観点で権利の欄を見ていただくと、どこまでを渡すことになっているのかがつかみやすくなります。

条件が届かないときの頼み方と、相談できる窓口

発注する側がこの義務を知らないまま、依頼を出していることもあります。そのときは、責めるような書き方をしなくても大丈夫です。

「行き違いがないように、納品物の内容と点数、納期、金額、お支払日、使っていただく範囲を、このメッセージに書いていただけますか」と、項目を並べてお願いするだけで、相手も返しやすくなります。法律の名前を出すかどうかは、相手との関係で決めていただいてよいと思います。切り出し方や、最初にこちらから出す一枚の作り方は、契約書がないまま仕事を受けているクリエイターの方へにまとめています。

それでも示してもらえないなど、取引条件に関する規定(第2章)に違反する事実があるときには、公の窓口もあります。第6条は、受ける側が公正取引委員会や中小企業庁長官に違反の事実を申し出て、適当な措置を求めることができると定め、申し出たことを理由に取引を減らすなどの不利益な扱いをすることも禁じています。なお、ハラスメントや契約の中途解除など就業環境に関する規定(第3章)については、第17条で厚生労働大臣への申出が定められています。厚生労働省のページでは、フリーランスの方の取引トラブルについて相談できる「フリーランス・トラブル110番」が案内されています。

個別の取引がこの法律に違反しているかどうかの判断や、相手との交渉、未払報酬の請求の代理は、当事務所ではお引き受けできません。争いになっている場合や法律判断が必要な場合は、弁護士をご紹介します。当事務所でお手伝いできるのは、届いた3条通知や契約書を拝見して、施行規則の項目と照らしながら、書かれていない点や確認しておきたい点を一緒に洗い出すこと、そして、受ける側から出す確認書や、次の案件からも使える契約書の型をおつくりすることです。初回のご相談もお見積りも無料で、お見積り前に費用が発生することはありません。

契約書のお手伝いの内容は、クリエイター保護サポートのご案内にまとめています。

依頼のメッセージが届いて、返事をする前に条件を確かめておきたいときに、どうぞお声がけください。ご相談はお問い合わせフォームから承っています。

本コラムは制度の一般的なご説明であり、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の事案についての法律判断・見通し、示談交渉、裁判手続の代理は行政書士の業務範囲外となりますので、必要な場合は提携の弁護士・税理士・司法書士をご紹介しています。

記載内容は執筆時点の情報にもとづいています。制度・運用は変わることがありますので、実際のお手続きの前に最新の情報をご確認ください。

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