イラスト、デザイン、写真、映像、ライティング。個人で創作の仕事をしている方のご相談をうかがっていると、取引の形はほとんど同じです。DMかメールで依頼が来て、金額と納期だけ決めて、着手する。契約書はない。
これで何年も問題なく回っている方もたくさんいます。ただ、もめるときのもめ方が、見事なくらい毎回同じなのです。
もめるのは、いつも同じ4か所
- 修正の回数 — 「何回まで」を決めていないので、無償の修正が終わらない。「イメージと違う」というやり直しが何周も続く
- 権利の範囲 — SNS用と聞いていたイラストが、広告に使われ、グッズになっていた。追加の対価はない
- 著作者人格権 — 名前を出してもらえない。勝手にトリミングや改変をされる
- 支払日 — 「検収後に支払います」の検収がいつまでも終わらず、入金が宙に浮く
逆に言えば、この4か所さえ最初に文字で決めておけば、トラブルの大半は起きる前に消えます。契約書の役割は、相手を縛ることではなくて、あとから「言った・言わない」になる場所を先に埋めておくことです。
文字にするといっても、難しい法律用語は要りません。たとえば、こんな一文で足ります。
修正は2回まで無償とし、3回目以降は1回につき◯◯円(税込)を申し受けます。
報酬は、納品月の翌月末日までにお支払いください。納品後10日以内にご連絡がない場合は、検収完了として取り扱います。
本件イラストの使用範囲は、貴社公式SNSでの投稿に限ります。広告・グッズ等への利用は、別途お見積りのうえ追加でご契約ください。
この程度の言葉で、4か所は埋まります。大事なのは網羅性ではなく、ご自身の仕事でもめやすい場所がちゃんと埋まっていることです。
「契約書を出したら気まずい」への答え
ご相談で必ず出てくるのがこの心配です。「契約書を出したら、細かい人だと思われて仕事が来なくなるんじゃないか」。
実務での答えは、出し方の問題です。分厚い「契約書」をいきなり送りつければ身構えられますが、「納品物の範囲と支払日をはっきりさせて、お互い動きやすくするための確認書です」と一言添えて出す一枚に、悪い顔をする発注者はほとんどいません。むしろ、そこで嫌がる相手は支払いでももめる可能性が高い、という見分けのフィルターにもなります。
添える一言も、たとえばこんな具合です。
いつもありがとうございます。お互いに進めやすいよう、納品物の範囲とお支払日をまとめた確認書をお送りします。ご確認のうえ、問題なければご返信だけいただければ大丈夫です。
それに、いまは追い風もあります。令和6年11月に施行された、いわゆるフリーランス法により、企業がフリーランスへ仕事を発注するときは、業務の内容・報酬額・支払期日などの取引条件を書面やメールで明示することが発注側の義務になりました。「条件を文字で残しましょう」は、もうこちらのわがままではなく、法律が発注者に求めている標準の作法なのです。
当事務所でお作りするときは、この「相手に送る一文」までセットでご用意しています。書面だけ渡されても、出せなければ意味がないからです。
毎回作るのではなく「自分の型」を一枚
案件ごとに契約書をゼロから作るのは現実的ではありません。おすすめしているのは、ご自身の活動に合わせた一枚の型を作っておくことです。金額と納期だけ差し替えれば毎回使える形にしておくと、出すのが億劫でなくなります。編集できる形式でお渡ししますので、二件目からはご自身で回せます。
相手から契約書を提示される側の場合も、不利になりそうな条項を読み解いてご説明し、修正をお願いする文面をご用意する、というお手伝いができます。
正直なライン引き
ひとつだけ正直にお伝えします。すでに発生してしまった未払い報酬の請求交渉や回収の代理は、弁護士の業務範囲なので当事務所では行えません。その場合は提携の弁護士をご紹介します。当事務所の持ち場は、やりとりの記録を整理して事実関係を書面にまとめることと、次から同じことが起きない形をつくることです。
依頼が増えてきた最初のタイミングが、型を整えるいちばんいい時期です。副業の段階でも構いません。ご相談はお問い合わせフォームから承っています。
出典・参考(いずれも行政機関の公表資料です)
- フリーランス法特設サイト公正取引委員会
- フリーランス・事業者間取引適正化等法 パンフレット公正取引委員会
- 誰でもできる著作権契約マニュアル文化庁
本コラムは制度の一般的なご説明であり、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の事案についての法律判断・見通し、示談交渉、裁判手続の代理は行政書士の業務範囲外となりますので、必要な場合は提携の弁護士・税理士・司法書士をご紹介しています。
記載内容は執筆時点の情報にもとづいています。制度・運用は変わることがありますので、実際のお手続きの前に最新の情報をご確認ください。
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