「実は、実家の名義が10年前に亡くなった父のままなんです」。ご相談の途中で、少し言いにくそうに打ち明けられることがあります。責められると思っていらっしゃるのですが、責める話ではまったくありません。それくらい、よくあることなのです。
葬儀と法事が終わり、日常が戻ってくると、名義の話はつい後回しになります。誰も住んでいない、あるいは誰かが住み続けているなら、なおさら困る場面がない。そうして年単位で時間が経っていきます。
相続登記は「義務」になりました
まずお伝えしておきたい制度の変化があります。不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが、法律上の義務になりました(令和6年4月1日施行)。ここで大事なのは、施行より前に発生した相続も対象になることです。「うちは10年前の相続だから関係ない」ではなく、過去の相続にも期限の枠がかかっています。
制度の中身をもう少し具体的に書くと、正当な理由がないまま期限を過ぎた場合、10万円以下の過料の対象になりえます。一方で、救済の仕組みも用意されました。遺産分割の話し合いがすぐにまとまらないときは、相続人申告登記という簡易な方法──自分がその不動産の相続人であることを法務局に申し出ておくだけで、ひとまず義務を果たした扱いになる制度──が使えます。「全部決まるまで何もできない」ではなくなった、というのが実務では大きな変化です。
とはいえ、この話を「早くしないと罰があるから」という脅しで語りたくはありません。実務でお伝えしたいのは、義務かどうか以前に、放置には実害がある、ということです。
放置すると、相続人が増えていきます
名義を変えないまま時間が経つと何が起きるか。相続人のどなたかが亡くなり、その方の配偶者やお子さんが新しく相続人に加わります。これが数次相続です。
最初は「母と子ども2人」の3人で話がつくはずだったのが、10年後には、会ったこともない甥や姪、その配偶者まで、ハンコをもらうべき相手が10人を超えている──実際にある話です。人数が増えるほど、全員の合意は難しくなります。誰かが認知症になれば後見の手続きが絡み、誰かが行方不明ならさらに別の手続きが要ります。売りたいときに売れない、担保に入れられない、空き家のまま管理責任だけが残る。放置のコストは、静かに複利で増えていきます。
いまから動く場合の順番
何年経っていても、やることの骨格は同じです。
- 戸籍を集めて、相続人を確定する — 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をたどります。数次相続が起きている場合は、その方の分も
- 財産を一覧にする — 不動産は登記事項証明書・名寄帳・固定資産評価証明書で確認します。把握していなかった土地が出てくることもあります
- 遺産分割協議書を作る — 相続人全員の合意を、あとから解釈が割れない書面にします
実務の細かい話をひとつだけ。財産の確認で意外に漏れやすいのが、私道の共有持分と、固定資産税がかからない山林や原野です。非課税の土地は納税通知書に載らないことがあるため、市区町村で名寄帳──その方がその市区町村内に持っている不動産の一覧──を取って突き合わせます。ここを飛ばして協議書を作ってしまうと、あとから出てきた土地のために、もう一度全員のハンコを集め直すことになります。
当事務所はこの3つをお引き受けし、そのうえで名義変更(相続登記)の申請は提携の司法書士へ、書類を整えた状態でおつなぎします。登記の申請そのものは司法書士の業務範囲だからです。同じ書類を二度集める必要はありません。相続税の申告が必要になりそうな場合は、期限に間に合うよう早い段階で税理士におつなぎします。
ひとつだけ当事務所の限界も書いておくと、すでに相続人のあいだで意見が対立している場合は、行政書士はお引き受けできません(交渉・調停の代理は弁護士の業務範囲です)。ただ、「もめている」と「まだ話し合っていないだけ」は違います。後者であれば、論点を整理する材料づくりからお手伝いできます。
年数が経っているほど、動き出すのに勇気が要るのは分かります。でも、相続人はこれからも増えることはあっても減ることはありません。いちばん身軽なのは、いつだって今日です。ご相談はお問い合わせフォームから承っています。
出典・参考(いずれも行政機関の公表資料です)
- 相続登記の申請義務化特設ページ法務省
- 相続登記の申請義務化に関するQ&A法務省
- 相続人申告登記について法務省
本コラムは制度の一般的なご説明であり、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の事案についての法律判断・見通し、示談交渉、裁判手続の代理は行政書士の業務範囲外となりますので、必要な場合は提携の弁護士・税理士・司法書士をご紹介しています。
記載内容は執筆時点の情報にもとづいています。制度・運用は変わることがありますので、実際のお手続きの前に最新の情報をご確認ください。
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