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婚前契約の切り出し方:疑っているからではなく、一緒に決めるために

夫婦のための契約書

婚前契約書を作っておきたい。そう思っても、いざお相手に話そうとすると、どう言えばいいのか迷ってしまうものです。「信用していないの?」と返されたらどうしよう。結婚を前に、わざわざ空気を重くしたくない。そのためらいは、相手を大事に思っているからこそ出てくるものです。

このコラムでは、婚前契約の切り出し方(言い出し方)を、言葉の順番、言い出すタイミング、相手が戸惑ったときの受け止め方に分けて書いてみます。決まった正解の台詞があるわけではありませんが、伝わり方がずれやすい場面には、いくつか共通した形があります。

「疑っているから」に聞こえてしまうのは、書面が先に立つから

婚前契約という言葉には、離婚に備えるもの、資産家が財産を守るためのもの、というイメージがまだ強く残っています。そのため、何の前置きもなく「婚前契約書を作りたい」と伝えると、お相手の頭に最初に浮かぶのは「何を警戒されているんだろう」という問いになりやすいのです。

けれど、民法が用意している夫婦財産契約は、婚姻の届出の前に、夫婦の財産をどう扱うかを決めておける仕組みです(第755条)。別れることを前提にした制度ではありません。実際に書面にする内容も、生活費の出し方や結婚前からの貯蓄の扱い、働き方や実家との付き合い方など、これからの暮らしの話が中心になります。どんなことを書くのかは「婚前契約書には、何を書くのか」にまとめました。

つまり、伝わり方がずれる原因は中身ではなく、順番にあります。契約書という形が先に出てくるから、目的が見えなくなってしまうのです。

契約書の話ではなく、暮らしの話から入る

おすすめしたいのは、「話し合い」を先に置き、「書面」をあとに置く順番です。たとえば、こんな言い方があります。

「結婚する前に、お金のことを一度ちゃんと話しておきたいな。どっちが正しいかじゃなくて、お互いがどう考えているかを知っておきたくて」
「住むところとか働き方とか、これからどうしたいか、一回ふたりで並べてみない?」

ここではまだ、契約書という言葉は出てきません。話してみて、決めたことが増えてきたところで「せっかく話したから、忘れないように書いて残しておかない?」とつなげれば、書面は話し合いの続きとして自然に受け取ってもらいやすくなります。

言い方の工夫は、ほかにも二つあります。ひとつは、主語を「あなた」ではなく「わたしたち」にすることです。「あなたのお金の使い方が心配だから」と聞こえる言い方は、どれだけやわらかくしても、相手を点検する話になってしまいます。

もうひとつは、自分のことから先に話すことです。自分の貯金がどのくらいあるか、奨学金やローンが残っているか、実家のことで気にかかっていることはないか。こちらが先に机の上に出すと、お相手も話しやすくなります。尋ねる側と答える側に分かれてしまわないことが、対等な話し合いの土台になります。

言い出すタイミングは、入籍日から逆算して早めに

時期についても、少しだけ制度の話をさせてください。夫婦財産契約は婚姻の届出の前に結ぶものとされていて、法律の定めと違う取り決めをご夫婦以外の人に主張するには、婚姻の届出までに登記をしておく必要があります(民法第756条)。この登記は法務局(登記所)で、契約をするおふたりが共同して申請する仕組みになっています(外国法人の登記及び夫婦財産契約の登記に関する法律第5条・第7条)。そして、夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は原則として変更できないと定められています(第758条第1項。家庭裁判所への請求による管理者の変更などの例外は、同条第2項以下にあります)。

この順番があるので、入籍の直前になって切り出すと、話し合いにかけられる時間がほとんど残りません。焦って決めた書面は、おふたりのどちらにとっても納得の薄いものになりがちです。

目安をひとつ挙げると、当事務所では、ご入金を確認してから原案をお渡しするまでに原則14営業日をいただいています。その前にヒアリングがあり、原案を受け取ってからおふたりで読み合わせて直す期間も加わりますので、式や入籍の日取りが決まった時点で切り出しておくと、話し合いに使える時間を削らずに済みます。入籍の前と後で何が変わるのかは「婚前契約は入籍前に。入籍後の夫婦間契約と何が違うのか」でくわしく書きました。

どの日に切り出すかで言えば、言い争いのあとや、式の準備で疲れているときは避けて、ふたりとも気持ちに余裕のある日を選ぶほうが話は進みます。最初に「今日ぜんぶ決めなくていいからね」と添えておくのも、相手の構えをほどく助けになります。一度で終わらせる話ではない、という前提を共有しておくと、二回目以降の話し合いも始めやすくなります。

お相手が戸惑ったときの受け止め方

どれだけ順番に気をつけても、最初の反応が戸惑いになることはあります。そのときに慌てて説得に入ると、話がこじれやすくなります。

「信用していないってこと?」と返ってきたら、まずはそう聞こえてしまったことを受け止めて、目的を言い直してみてください。「疑っているんじゃなくて、これから一緒に決めていきたいことを、ちゃんと言葉にしておきたいの」と伝え直すだけで、受け取り方が変わることがあります。

「そこまでしなくてもいいんじゃない?」と言われたら、書面は後回しでも構いません。話すことそのものに意味がありますから、まずは話し合いだけをして、書くかどうかはそのあとで決める、という進め方でも十分です。

ご家族から勧められたことがきっかけの場合は、その理由を前に出しすぎないほうがよいかもしれません。親が言うから作る、という形になると、お相手には自分たちの外から決められた話に聞こえてしまいます。きっかけは正直に伝えつつ、何を決めるかはふたりで決める、という姿勢を言葉にしておくと伝わりやすくなります。

ご自身の事業や、ご実家から引き継ぐ財産が理由になっているときも、隠さずに伝えるほうが話は誠実に進みます。そのうえで、お相手にも守りたいものや決めておきたいことがないかを聞いてみてください。一方だけが守られる書面ではなく、ふたりの希望が両方入った書面を目指している、という姿勢が伝われば、切り出した話の受け止め方も変わってきます。

そして、お相手が考える時間を望んだら、その時間はきちんと取ってください。押し切って作るものではありませんし、どちらかが納得しないまま署名した書面は、ふたりの約束として働きにくくなります。

話し合いが始まったら、書面にする準備を少しずつ

話し合いが進んできたら、決まったことを簡単なメモに残しておくと、あとで書面にするときの材料になります。生活費の分担、結婚前からの財産の扱い、仕事が変わったときの相談の仕方、実家との距離、すれ違ったときの話し合いの持ち方。全部を一度に決めきる必要はありません。

ひとつ知っておいていただきたいのは、書いたことすべてが法律上の効力を持つわけではない、という点です。どんな書き方が効力の点で問題になりやすいかは「婚前契約書で効力が届きにくい条項」に書きました。また、書面は、公証役場で公証人が作成する公正証書にすることもできます(作成には公証人の手数料がかかります)。公正証書にするかどうかの考え方は「婚前契約書、公正証書にしたほうがいいですか」にまとめました。

当事務所では、まだお相手に切り出していない段階で、お一人でご相談いただくこともできますし、おふたりそろってのご相談も承っています。ヒアリングはビデオ通話などオンラインで承っていますので、遠方にお住まいでも同じように進められます。

ご依頼の流れと料金は、婚前契約書の作成のご案内にまとめています。

「どう話を始めればいいか分からない」というところからで大丈夫です。初回のご相談は無料です。ご相談はお問い合わせフォームから承っています。

本コラムは制度の一般的なご説明であり、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の事案についての法律判断・見通し、示談交渉、裁判手続の代理は行政書士の業務範囲外となりますので、必要な場合は提携の弁護士・税理士・司法書士をご紹介しています。

記載内容は執筆時点の情報にもとづいています。制度・運用は変わることがありますので、実際のお手続きの前に最新の情報をご確認ください。

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