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婚前契約書で効力が届きにくい条項(離婚の制限・親権・扶助義務)

夫婦のための契約書

インターネットで見つけたひな形に、おふたりで思いつくかぎりのことを書き込んでみる。浮気をしたらいくら払う、家事はどちらが何をする、離婚はしない。婚前契約書づくりを、そんなところから始める方もいらっしゃると思います。よく話し合ったからこそ書ける紙で、それ自体がとても大事な出発点です。

そのうえで、ひとつだけ先にお伝えしなければならないことがあります。婚前契約書に書いたことが、全部そのまま効力を持つわけではない、ということです。

これは「意味がないからやめましょう」という話ではありません。むしろ逆で、どこが効いてどこが効きにくいのかを知らないまま署名してしまうと、いちばん守りたかった部分だけが空振りしてしまうことがあります。書面を設計するときに、まず押さえておきたいのはこの点です。

「離婚しない」という約束は、そのままでは通りにくい

代表的なのが、離婚そのものを封じようとする条項です。「いかなる理由でも離婚を求めない」「離婚を切り出したほうが違約金を支払う」といった書き方ですね。気持ちとしてはとてもよく分かります。書いておけば相手が思いとどまってくれるのではないか、という願いが込められています。

ただ、婚姻を続けるか終わらせるかという選択は、個人の生き方の根っこにある部分です。契約でそこを縛ろうとすると、公の秩序や善良の風俗に反する(民法第90条)として、効力が問題になり得ます。金額の大きすぎる違約金の条項も同じで、争いになったときに「そこは通らない」と判断される可能性を抱えたままになります。

貞操に関する違約金の定めも、金額や書きぶりによって評価が分かれる領域です。当事務所では、金額を跳ね上げるより、「起きたときにどう話し合いを始めるか」の手順を書くほうをおすすめしています。気持ちのうえでの歯止めとしても、そのほうが働きやすいと考えています。

お子さんに関することは、ふたりの合意だけでは決まりません

まだ生まれていないお子さんについて、親権はどちらが持つ、養育費はいくら、面会は月に何回、と細かく決めておきたい、と考える方もいらっしゃるでしょう。

このあたりは、当事者の合意が唯一の基準にならない分野です。民法は、離婚のときに子の監護について必要な事項を定める場合には、子の利益を最も優先して考慮しなければならない、としています(第766条)。何年も前にご両親が交わした約束が、そのまま将来を決めてしまう、という仕組みにはなっていません。生まれてもいない子の親権者を先に決めておくのは、実際には難しい約束です。

なお、2026年4月からは、離婚後の親権者を父母の双方とするか一方とするかを、協議で定められるようになりました(協議が調わないときは家庭裁判所が定めます。第819条)。また、養育費の取り決めをしないまま協議離婚した場合でも、主にお子さんを監護している親が、法務省令で定める額を請求できる「法定養育費」の制度も始まっています(第766条の3)。どの形になるにしても、お子さんのことは最終的にその子の利益の観点から決まる、という考え方は変わりません。

では書く意味がないかというと、そうでもありません。「もし別れることになっても、子どもに会わせない、という使い方はしない」というおふたりの姿勢を、いちばん冷静な時期に文章にして残しておくこと自体には意味があります。効力の話と、記録としての値打ちの話は、分けて考えていただきたいところです。

助け合う義務そのものは、契約では消せません

「生活費は一切渡さない」「病気になっても互いに面倒は見ない」。極端に思えるかもしれませんが、財産をきれいに分けたいという発想を突き詰めると、こういう条項に行き着くことがあります。

夫婦には、同居して互いに協力し扶助する義務(第752条)と、婚姻から生じる費用を分担する義務(第760条)が民法に定められています。財産の帰属は自由に設計できる幅が広いのですが、支え合う義務そのものを契約で消すところまでは届かない、と考えておくのが安全です。

ここは、収入差の大きいご夫婦ほど注意が要る部分でもあります。「住居費は収入の多いほうが、医療費は各自」と書くと一見公平ですが、病気になった側だけが経済的に追い込まれる設計になっていないか。半分ずつが、いつでも平等とはかぎりません。

家事の分担は、効力より運用のルールとして

ゴミ出しや洗濯をどちらが受け持つか、といった生活の取り決めは、書いても裁判所に強制してもらえる性質のものではありません。それでも当事務所では、むしろ積極的に書いておくことをおすすめしています。

婚前契約でいちばん効くのは、実は署名した紙ではなく、その紙を作るために交わした会話のほうだと考えているからです。「言わなくても分かるよね」と飲み込んでいたことを、いちど机の上に出す。この工程を飛ばして何年も過ごしてしまうと、あとから言葉にするのは本当に難しくなります。

相手を黙らせる条項になっていないか

最後に、秘密保持の条項について、気をつけていただきたいことがあります。

夫婦の会話や写真を外部に公表しない、違反したら違約金を支払う。私生活を守るための条項で、それ自体はまっとうなものです。ただ、この形は、被害を受けた側が誰かに相談することまで押しとどめる方向にも働いてしまいます。相談窓口や専門家に打ち明けることを封じるつもりはなくても、違約金の金額を見て黙ってしまう、ということが起こり得るのです。

ですので当事務所では、この種の条項に「相談、通報、法的手続のために必要な範囲の開示はこの限りでない」という但書を置くようにしています。契約という形式だけでは、おふたりの対等さまでは守れないからです。

効力が届かないことと、書く意味がないことは違います

婚前契約書は、書けば書くほど強くなる書面ではありません。効きにくい条項を並べていくと、書面全体の印象まで引っ張られることがあります。それよりも、財産の帰属や生活費の分担といった中核の部分を丁寧に設計することのほうが大切で、紙の枚数は少なくても構いません。

当事務所では、ヒアリングの段階で、一般に効力が問題になりやすいとされる書き方かどうかを書面づくりの観点からお伝えし、約束として残す書き方もあわせてご提案します。個別の条項が有効かどうかの判断や、すでに争いが起きているときの対応は弁護士の業務ですので、その場合は提携の弁護士をご紹介します。

料金は、契約書のみの作成が250,000円(税込)、公正証書にする場合が270,000円(税込)で、公正証書の場合は公証役場の手数料が実費として加わります。何を書くのかの定番は、別のコラム「婚前契約書には、何を書くのか」でご紹介しました。

ご依頼の流れと料金は、婚前契約書の作成のご案内にまとめています。

初回のご相談は無料ですので、書き込んだひな形をそのままお持ちいただくところから始めていただいて構いません。ご相談はお問い合わせフォームから承っています。

本コラムは制度の一般的なご説明であり、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の事案についての法律判断・見通し、示談交渉、裁判手続の代理は行政書士の業務範囲外となりますので、必要な場合は提携の弁護士・税理士・司法書士をご紹介しています。

記載内容は執筆時点の情報にもとづいています。制度・運用は変わることがありますので、実際のお手続きの前に最新の情報をご確認ください。

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