銀行に電話をして、父が亡くなったことを伝えた。すると後日、分厚い封筒が届いて、中には相続届と、そろえる書類の一覧が入っていた。戸籍、印鑑証明書、遺産分割協議書。読めば読むほど、何から始めればいいのか分からなくなってくる。
銀行の相続手続きは、ひとつひとつの書類はそれほど特別なものではありません。手間がふくらむのは、口座が複数の銀行に分かれていて、それぞれが少しずつ違う書類を、違う条件で求めてくるからです。順番を間違えると、せっかく取った書類をもう一度取り直すことになりかねません。この記事では、窓口で求められやすい書類と、二度手間を避けるための進め方をまとめました。
最初にお伝えしておきたいのは、必要な書類と手続きの流れは金融機関ごとに異なるということです。ここに書くのは一般的な形で、実際の要件は、各金融機関の案内か窓口で確かめてください。
銀行が見ているのは「誰に払えば間違いがないか」です
亡くなった方の口座のお金を払い戻すとき、銀行がいちばん気にしているのは、正しい相手に、正しい額を払うことです。相続人ではない人に払ってしまったり、相続人の一部だけの話で払ってしまったりすれば、あとから別の相続人に「私の分はどうなったのか」と言われかねません。
そのため銀行は、次の三つを書面で確かめようとします。亡くなった方が誰で、相続人が誰なのか。その相続人のあいだで、預金を誰がどう受け取ることになったのか。手続きに来ている人が本人で、その意思が本物なのか。窓口で求められる書類は、どれもこの三つのどれかを裏づけるためのものだと考えると、一覧表の意味がつかみやすくなります。
なお、銀行は名義人が亡くなったことを知ると、その口座での入出金や引き落としを原則として止めます。公共料金やクレジットカードの引き落とし口座になっていた場合は、支払い方法の切り替えも並行して進めておくと慌てずに済みます。
銀行の相続手続きで必要になる書類
遺言がなく、相続人どうしで分け方を話し合う場合、求められやすいのは次のような書類です。
- 金融機関所定の相続届(相続手続依頼書などの名前のこともあります)
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍
- 相続人全員の現在の戸籍
- 遺産分割協議書(話し合いで分け方を決めた場合)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 手続きをする方の本人確認書類と、通帳・キャッシュカード
口座を解約して払い戻す場合も、相続人のひとりが口座をそのまま引き継ぐ名義変更の形をとる場合も、求められる書類はおおむね同じです(名義変更ができるかどうかは金融機関によります)。
戸籍は、相続人が誰なのかを確かめるためのもので、亡くなった方の分は出生までさかのぼる必要があります。この集め方は手間がかかるので、「出生から死亡までの戸籍」が、なぜあんなに大変なのかに別にまとめました。
遺産分割協議書を作らずに、相続届に相続人全員が署名し実印を押す形で進められる金融機関もあります。ただ、口座が複数の銀行にあると、その都度全員の署名を集めることになります。協議書を一度作っておけば、どの銀行にも同じものを出せます。協議書の書き方の注意点は、遺産分割協議書がないと止まる手続きと、解釈が割れない書き方に書いています。
遺言がある場合は、出す書類が変わります。公正証書遺言であればその謄本などを、自宅で保管されていた自筆の遺言であれば、家庭裁判所の検認を経たことの分かるものを求められるのが一般的です(民法第1004条)。法務局の自筆証書遺言書保管制度に預けられていた遺言は検認が不要で(法務局における遺言書の保管等に関する法律第11条)、法務局で交付される遺言書情報証明書を使って手続きを進めます。
戸籍の束を回す代わりに、法定相続情報一覧図を
銀行が二つ、三つとあると、戸籍の束を一つの銀行に出しては返してもらい、次の銀行へ持っていく、という往復が始まります。原本を預けているあいだ、ほかの手続きは止まってしまいます。
これを避けられるのが、法務局の法定相続情報証明制度です。制度そのものの説明は戸籍集めのコラムにも書いたので、ここでは銀行の手続きで効くところだけを挙げます。戸籍の束と、相続関係を一枚にまとめた法定相続情報一覧図を登記所に出すと、認証文の付いた一覧図の写しを、手数料なしで必要な通数受け取れます。法務局の案内でも、相続登記のほか、亡くなった方名義の預金の払戻しに使える書類として挙げられています。
申出先は、亡くなった方の本籍地、最後の住所地、申出をする人の住所地、亡くなった方名義の不動産の所在地のいずれかを管轄する登記所で、郵送でも受け付けています。親族のほか、行政書士などの専門家に申出を頼むこともできます。
気をつけたいのは、一覧図に載るのはあくまで戸籍から分かる法定相続人だということです。相続放棄をした方や、話し合いの結果、預金を受け取らないことになった方も一覧図には載ります。また、一覧図のほかに求められる書類は提出先ごとに違うので、法務局も、ほかに要る書類を利用先にあらかじめ確かめるよう案内しています。
預金の相続手続きの流れと、二度手間にならない順番
書類そのものより、取る順番のほうで手間が変わります。おすすめしたいのは、次のような流れです。
まず、口座の洗い出しから始めます。通帳やキャッシュカードのほか、銀行からの郵便物、ネット銀行であればスマートフォンのアプリやメールが手がかりになります。ここで漏れがあると、全部終わったあとにまた書類を集め直さなければなりません。
次に、見つかった金融機関すべてに連絡して、所定の書類と必要書類の一覧を取り寄せます。それを並べて見比べてから、戸籍集めに入ってください。戸籍を何通取るか、一覧図を何通もらうかは、金融機関ごとの要件を見てからのほうが決めやすいからです。あわせて残高証明書を頼んでおくと、預金の全体が見え、分け方の話し合いや財産目録づくりの材料になります。
戸籍がそろったら法定相続情報一覧図を取り、そのうえで遺産分割の話し合いをまとめて協議書を作ります。
印鑑証明書は、最後に取るのが安全です。金融機関によっては、発行から何か月以内のものという期限を設けていることがあり、早く取りすぎると、話し合いが長引いたあいだに期限が切れてしまいます。相続人が遠方に住んでいると、取り直しを頼むだけで何週間もかかることがあります。協議書に署名と実印をもらうときに、一緒に取っていただくのが手戻りの少ない形です。
書類がそろったら、各金融機関への提出は並行して進められます。一覧図の写しを複数通もらっておけば、一つの銀行の手続きが終わるのを待たずに次へ出せます。
話し合いの前に、お金が必要になったときは
葬儀の費用や、当面の生活費が必要なのに、話し合いがまだまとまらない、ということもあります。そのために設けられているのが、遺産分割前の預貯金の払戻し制度です(民法第909条の2)。
各相続人は、口座ごとに、相続開始の時の残高の3分の1に自分の法定相続分を掛けた額までは、ほかの相続人の同意がなくても単独で払戻しを受けられます。ただし、同じ金融機関からは合わせて150万円が上限です(平成30年法務省令第29号)。たとえば、ある銀行の一つの口座に600万円の預金があり、相続人がお子さん2人だけの場合、1人あたり600万円の3分の1に2分の1を掛けた100万円が、この制度で受け取れる額の目安になります。払い戻した分は、その相続人が遺産の一部を先に受け取ったものとして扱われます。この払戻しを受けるときも、戸籍などの書類を求められることが多いです。
それから、亡くなった方に借金があるかもしれない場合は、預金に手をつける前に立ち止まってください。相続放棄には、自分が相続人になったことを知った時から3か月という期間があります(民法第915条。家庭裁判所に申し立てて、この期間を延ばしてもらえる場合もあります)。払戻しが放棄にどう影響するかは個別の事情によって変わるので、この点は弁護士にご相談ください。相続人のあいだで分け方に争いがある場合も、弁護士の領域です。預金を含めて相続税の申告が必要になりそうなときは、税理士におつなぎします。
戸籍の収集、法定相続情報一覧図、遺産分割協議書から、金融機関に出す書類の作成まで、当事務所でお引き受けしている範囲は、相続手続きサポートのご案内にまとめています。
銀行から届いた書類一式を前に、どこから手をつければいいか分からない、という段階からで大丈夫です。届いた案内を拝見して、取る書類と順番を一緒に整理します。ご相談はお問い合わせフォームから承っています。
出典・参考(いずれも行政機関の公表資料です)
本コラムは制度の一般的なご説明であり、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の事案についての法律判断・見通し、示談交渉、裁判手続の代理は行政書士の業務範囲外となりますので、必要な場合は提携の弁護士・税理士・司法書士をご紹介しています。
記載内容は執筆時点の情報にもとづいています。制度・運用は変わることがありますので、実際のお手続きの前に最新の情報をご確認ください。
CONTACT
まずは、お話をお聞かせください。
まだ内容が固まっていない段階からで大丈夫です。お問い合わせフォームからお送りいただければ、行政書士より直接お返事します。初回のご相談は無料です。
婚前契約・補助金・相続・農地転用などのご相談はお問い合わせフォームで承っています。
TEL 050-8894-0105(官公庁・警察署からのご連絡用)