「ペット相続」という言葉を、インターネットで見かけることがあります。自分にもしものことがあったとき、この子はどうなるのか。誰が引き取って、ごはん代や病院代は誰が出すのか。その備えをまとめて「ペット相続」と呼んでいるようです。
ただ、この言葉には少し注意が要ります。法律のうえで、ペットは相続をしません。相続をするのは人で、ペットはむしろ相続される側です。この記事では、ペット相続と呼ばれているものの中身を条文に沿ってほどき、契約書で何を決めておくのかを整理します。
ペットは遺産を相続できません
民法は、「物」とは有体物をいうと定めています(第85条)。犬や猫は人ではありませんので、法律のうえでは「物」、つまり財産の側として扱われます。財産を受け取る側に立つことはできず、預金や家をペットの名義で遺すことはできません。
一方で、動物愛護管理法は、動物が命あるものであることにかんがみ、その習性を考慮して適正に取り扱うよう定め(第2条第1項)、飼い主には、その動物が命を終えるまで適切に飼う「終生飼養」に努める責務を置いています(第7条第4項)。命あるものとして扱われることと、財産の受け取り手になれないことは、別の話として並んでいます。
ですので、「ペット相続」でできるのは、ペットにお金を遺すことではなく、世話をしてくれる人にお金を渡し、世話を引き受けてもらうことです。
飼い主が亡くなると、ペット自身が相続財産になります
相続人は、相続が始まった時から、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を引き継ぎます(民法第896条)。ペットは財産ですので、飼い主が亡くなると相続人のものになります。相続人が複数いれば、遺産分割が済むまでは相続人全員の共有です(第898条第1項)。
誰がその子を引き取るかは、何も決めていなければ、相続人の話し合い(遺産分割の協議)で決まります(第907条第1項)。相続人の中に動物が苦手な方や飼えない事情の方がいても、法律が「この人が飼う」と決めてくれるわけではなく、費用を誰が負担するかも書いてありません。
どんな結論になるかはご家族の事情によって変わりますので、当事務所が見通しを申し上げることはできません。はっきり言えるのは、飼い主が何も決めずに亡くなると、その子の行き先と費用の両方が、残された方々の話し合いに委ねられる、ということです。
だから、ペットを託す契約書で「誰に」「いくらと一緒に」「何を条件に」を決めておきます
贈与は、一方が財産を無償で与える意思を表示し、相手方が受諾することで効力を生じる契約です(民法第549条)。このうち、贈与者の死亡によって効力を生じるものが死因贈与で、その性質に反しない限り遺贈の規定が準用されます(第554条)。受け取る側に義務(負担)を付けた贈与は負担付贈与と呼ばれ、双務契約の規定が準用されます(第553条)。二つを合わせた負担付死因贈与契約が、「飼い主が亡くなったときに、この子と飼育費をその方に贈与し、その方はこの子を最期まで世話する」という約束の、法律上の形です。当事務所では、これを「ペットを託す契約書」と呼んでいます。
決めておくことは、三つに整理できます。
- 誰に。 この子をお願いする方を受贈者にします。あわせて、その方が先に亡くなったり引き受けられなくなったりしたときの、第二の託し先も決めておきます。
- いくらと一緒に。 その子の年齢と持病、フード代や通院費から飼育費を見積もり、一緒に渡す金額を決めます。
- 何を条件に。 「△△を最期まで飼養すること」のように、受け取る側の義務を条項として書きます。ごはんの銘柄や通院先のように条項になじまないものは、「お願い」として分けて添えます。
口約束でも贈与は成立しますが、書面によらない贈与は、履行の終わった部分を除いて各当事者が解除できます(第550条)。亡くなったあとに動く約束だからこそ、書面にしておく意味があります。また、契約はお二人を拘束するもので、ご親族など当事者でない方に当然に及ぶものではありませんので、相続人になる方にも生前に話しておく意味があります。
条項を実際にどう書くか、飼育費をどう見積もるかは、このあと順に公開するコラムで一つずつ書いていきます。契約書が受け持つのは亡くなったあとのことで、入院など生前の「空白」を埋める備えは、無料でダウンロードできるペット情報シートに書き出しておくのが近道です。
遺言(負担付遺贈)との違いは、約束の相手がいるかどうかです
似た仕組みに遺贈があります。遺言者は、包括または特定の名義で、財産の全部または一部を処分することができ(民法第964条)、この遺贈に受け取る人の義務を付けたものが負担付遺贈です。「ペットのための遺言書」という言い方で紹介されているのは、この負担付遺贈の形です。負担は、遺贈された財産の価額を超えない範囲にとどまります(第1002条第1項)。
契約との違いは、約束の相手がいるかどうかです。遺言は遺言者が一人で作る書面で、名前を書かれた方の承諾は成立の要件ではありません。そして受遺者は、遺言者が亡くなったあと、いつでも遺贈を放棄できます(第986条第1項)。名前を書いただけでは、引き受けてもらえるかどうかは決まっていません。契約は、相手の受諾があって初めて効力を生じます(第549条)。「引き受けます」という相手の意思が、はじめから約束の中に組み込まれています。託す相手の承諾を先にいただく、という当事務所の進め方は、ここから来ています。
遺言は民法の定める方式(自筆証書・公正証書・秘密証書)に従う必要があり(第960条・第967条)、遺言者はいつでも遺言の方式に従って撤回できます(第1022条)。死因贈与にも遺贈の規定が準用されますが(第554条)、相手のある契約ですので、飼い主の側から一方的に変えられるかどうかは事情によって扱いが分かれる論点で、ここでは断定しません。変えたいときはお二人の合意で変える、と考えておくのが基本です。
受け取った方が世話をしなかったときの扱いも違います。負担付遺贈では、相続人が相当の期間を定めて催告し、それでも果たされなければ、家庭裁判所に遺言の取消しを請求できます(第1027条)。負担付死因贈与にこの規定がどう及ぶかは個別の判断になりますので、契約書の側で、世話が続けられなくなったときにどうするかを先に決めておきます。
当事務所でお作りしているのはペットを託す契約書で、遺言書の作成は扱っておりません。遺言の形をご希望の方には、遺言を扱う専門家をご案内します。
ペット信託という方法もあります
ペット信託という言葉を見かけることもあります。信託は、特定の者が一定の目的に従って財産の管理や処分をするものとする仕組みで(信託法第2条第1項)、契約・遺言・自己信託のいずれかの方法でします(第3条)。ペットのための信託として一般に説明されるのは、飼い主が委託者となって飼育費を受託者に託し、新しい飼い主へ受託者から飼育費を支払っていく形です。お金を管理する人と世話をする人を分けられ、定め方によっては生前の入院の場面から動かす設計も考えられるところが、契約書との違いです。
反面、受託者の選び方や、終わったときに残った財産の行き先など、決めることが増えます。二つの仕組みの比べ方は、次に公開するコラムで詳しく書きます。信託の設計は当事務所の業務ではありませんので、信託が合いそうなときは、その理由をお伝えしたうえで信託を扱う専門家をご案内します。
費用の考え方
当事務所のペット相続サポートは、ペットを託す契約書の作成(公正証書にしない場合)が110,000円(税込)、公正証書にする場合が起案から公証役場の手続までで165,000円(税込)です。初回のご相談は無料です。
公正証書にする場合は、これとは別に公証人の手数料(実費)がかかります。手数料の額は公証人手数料令で定められていて、法律行為の目的の価額の区分に応じた額になります(第9条・別表)。渡す飼育費の額などで変わりますので、ヒアリングのあとに見込みの額をご案内します。署名だけの契約書でも契約は成立しますが、亡くなったあとに動く契約ですので、作成の真正が争われにくく、原本が公証役場に残る公正証書にしておくことを当事務所ではおすすめしています。契約書の作成のみのサポートも承っています。
契約の内容を実際に動かす執行者を当事務所でお引き受けすることもできます。こちらは財産の内容により個別にお見積りします。遺言書の作成、ペット信託の設計、任意後見契約は当事務所では扱っておりませんので、ご希望の方には扱う専門家をご案内します。相続全体の整理は相続手続きサポートのページをご覧ください。贈与税や相続税は税理士の、遺留分などをめぐる争いが見込まれるときは弁護士の領域ですので、提携の専門家をご紹介します。
作成の流れと料金のめやすは、ペット相続サポートのご案内にまとめています。
「ペット相続という言葉は知っているけれど、何から手をつければいいか分からない」という段階からで大丈夫です。その子の年齢と、頼めそうな方がいるかどうかを伺うところから始めます。初回のご相談は無料です。ご相談はお問い合わせフォームから承っています。
出典・参考(いずれも行政機関の公表資料です)
本コラムは制度の一般的なご説明であり、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の事案についての法律判断・見通し、示談交渉、裁判手続の代理は行政書士の業務範囲外となりますので、必要な場合は提携の弁護士・税理士・司法書士をご紹介しています。
記載内容は執筆時点の情報にもとづいています。制度・運用は変わることがありますので、実際のお手続きの前に最新の情報をご確認ください。
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